「先生、なんで返事してくれなかったの?」
子どもの言葉に、胸がチクリと痛んだ日がありました。
私は、小学校の教員をしています。
そして、中等度の感音性難聴という聞こえにくさを抱えて暮らしています。
「中途半端な難聴」ってなんだろう
私の耳は、まったく聞こえないわけではありません。 軽度・中等度の難聴者は、障がい者手帳を持っていないことがほとんどです。
大きな声は届きます。静かな部屋なら会話もできます。
でも、騒がしい場所、相手の声の高低や話し方、疲れ、複数人での会話、口元が見えないといった条件がそろうと、世界がいっきにぼやけるように感じます。
「聞こえそうで聞こえない」
この“中途半端な聞こえ”は、周囲から理解されにくいものだと思います。
「わざと無視したの?」という誤解
ある日、休み時間に子どもが教えてくれました。
「先生~、お兄ちゃんが、おはし先生は話しかけても無視するからいやだった~って言ってたよ!」
兄妹続けて担任をしていた、妹さんの方の言葉です。当時はお兄ちゃんにそんな風に思われているとは感じていなかったのでショックが大きかったです。
補聴器をしていても、完ぺきに聞こえるわけではありません。 担当する子どもたちには毎年説明しているのですが…「ちゃんと聞いて」と言われるたびに、悲しさでいっぱいになります。
でも子ども目線で考えると、普段普通に会話している先生が返事をしないと、「無視した」となるのもしょうがないかなとも思います。
補聴器をつける?つけない?どっちつかずの葛藤
補聴器をつけることも、私にとっては大きなハードルでした。
つけると「そんなに聞こえないの?」と思われるのでは…
つけないと、「補聴器なしでも聞こえてるのに」と思われるのでは…
つけていないと困ることも多いけど、ずっとつけていると疲労感が強い。 結局、今は場面によってつけたり外したりしています。
「つけてるけど、聞こえないこともある」
「つけてないけど、聞こえることもある」
この“あいまいさ”が、自分でももどかしい。
「伝えないと伝わらない」ことに、気づいた
教員という仕事をしていますが、自分のことを伝えることは正直苦手です。 でも最近は、できるだけ自分の聞こえについて伝えるようにしています。
職場では、「実はちょっと聞こえにくくて…」と打ち明けるだけで、空気がふっとやわらかくなる瞬間があります。
小学生の子どもたちの中には、難聴者と接するのが初めて、というお子さんもたくさんいます。耳につけた補聴器を見て、「先生それなに~?」と聞かれることもしょっちゅうです😂
誰かに配慮を求める、というより(もちろん助けてもらうこともたくさんあるのですが)
「私はこういう特性を持ってます」と開示する。
それだけで、子どもたちの世界の見え方がちょっとずつ変わっていく気がしています。
中等度難聴は、「見えないけれど、確かにある」
完全に聞こえないわけじゃない。
でも、健聴とまったく同じではない。
中等度の難聴は、その“あいだ”にあります。
だからこそ、気づいてもらうのがむずかしいし、自分でも説明がむずかしい。
でも、それでも、声をあげてみようと思いました。
これからも、私の「聞こえるようで、聞こえない」日々のことを、
少しずつ書き残していきたいと思います。
最後にひとこと
「普通に話してるのに、どうして聞こえないの?」
そんなふうに思ったことのある方へ。
“普通”の感じ方は、人それぞれです。
聞こえ方もまた、人それぞれです。
あなたのまわりにも、私のような“ちょっと聞こえない人”がいるかもしれません。
気づくきっかけになれたら、うれしいです。